事業承継については専門的な知識が求められることも多く、経営者にとっても大きな悩みの一つです。また近年では事業承継をサポートする機関も増えており、どこに相談すれば良いかわ分からないという方も多いでしょう。
そこで今回は6つの相談先とその特徴。相談先を選ぶ際の注意点や、事業承継のケース別での相談先まで詳しく解説していきます。
事業承継についてよくある相談内容
後継者が見つからない
まずは経営者の方から寄せられる事業承継に関する相談内容について簡単に紹介していこうと思います。
良くある相談内容の一つとして事業を引き継ぎたいが事業を引き継いでくれる後継者が見つからないというものがあります。
2019年に経済産業省が発表している資料によると今後10年間に70歳を超える経営者は245万人で、そのうち約半数の127万人は後継者が未定であるという調査結果が出ています。
後継者不足で困っている経営者は多く、後継者不足は社会的に見ても大きな問題であると言えます。
事業承継の方法が分からない
数々のことを経験してきた経営者にとっても事業承継は初めてである場合が多く、何からどう手を付けて良いか分からないというケースが多いです。
経営者自身が引き際を決めて事業承継をする場合では、どのタイミングで事業承継を行えば良いか分からないといった相談も良くあります。
また経営者自身の子供が社内で働いており、その他の親族や従業員に会社を引き継がせる場合なども、株式の分散や親族間での揉め事の発端になる恐れがあり、頭を悩ませているという相談も多く寄せられます。
税制面について不安がある
税制面では専門性を求められことも多く、不安を抱いている経営者も多いようです。
自社株を後継者に譲渡する場合に気になるのは相続税や贈与税などの税金面についてです。自社株の評価額が高い場合は多額の税金を納めなければならない可能性があります。
節税においては平成30年度の税制改正で、事業承継税制に対する特例措置が誕生しました。この特例措置の対象は原則、上場会社に該当しない中小企業者が対象になっているため有効に活用していきましょう。
事業承継の相談先6選 それぞれの特徴もご紹介
M&A仲介業者・M&Aコンサルティング会社
M&A仲介業者とM&Aコンサルティング会社の違いはほとんどありませんが、M&A仲介業者は主にM&Aのみを取り扱っているのに対し、M&Aコンサルティング会社はM&Aの他にもコンサルティングサービスを行っていることが多く、より手厚いサポートが期待できます。
メリット:M&A仲介業者・M&Aコンサルティング会社
メリットはM&Aの実績が豊富でこれまでの事例からノウハウが社内に蓄積されているという点です。
M&Aに関して最新の情報にも精通しており、事業内容に関して理解を深めた上で最適な候補先を探してくれます。
また親族や従業員に後継者がおらず、M&Aによって会社を売却しようと考えている場合では、M&A仲介業者やM&Aコンサルティング会社に相談することは最も有効な方法です。
職業柄、幅広いネットワークを構築していることも強みの一つであり、多くの候補の中からM&Aの相手先を探し出し、交渉、その先の手続きに至るまで幅広くサポートしてもらえます。
デメリット:M&A仲介業者・M&Aコンサルティング会社
公的機関のサービスを利用するときと比べるとM&A仲介業者やM&Aコンサルティング会社に支払う報酬が発生することです。
M&Aにおける報酬はその企業の規模によっても異なります。そのため高額になるケースもあれば比較的低額で収まるケースもあります。
事業引継ぎ支援センター
事業引継ぎ支援センターは、経済産業省がその地域の中小企業支援機構等に業務を委託する形で相談窓口を設けている、行政が運営する支援機関です。
メリット:事業引継ぎ支援センター
事業引継ぎ支援センターは行政が運営する公的な支援機関であるため、公平な立場から意見や提案をしてもらいやすい点がメリットの一つです。
また無料で相談できるので気軽に相談できます。相談窓口も全国47都道府県それぞれに設置されているので、国内であれば基本どこにいても相談できる点も魅力の一つです。
デメリット:事業引継ぎ支援センター
M&A実績という面でいうと民間のM&A仲介業者やM&Aコンサルティング会社よりも劣るため、M&Aに関してのサポートは民間に比べると手薄になる傾向があります。
実際に2017年のM&A件数は3050件であるのに対し、事業支援センターで取り扱ったM&A支援件数は687件です。
また基本的に相談は無料ですが登録期間の支援や士業の支援を受ける場合は最終的に報酬を支払わなければならない場合があり、そこに関しては注意が必要です。
金融機関
取引先の金融機関でも事業承継の相談に対応している場合があります。また中には事業承継を専門で対応する窓口を設置している金融機関もあります。
金融機関によっては事業承継セミナーなどを開催していることもあるので活用してみるのも良いかもしれません。
メリット:金融機関
金融機関のメリットとしてはなんと言っても長年の付き合いで培った信頼による相談のしやすさでしょう。
また初めから会社のことを深く理解している場合が多いためスムーズに話を進めることができます。
M&A全般の専門性が高く地域内や県内など一定の地域においてのネットワークや情報には圧倒的に強い点も魅力の一つです。
デメリット:金融機関
金融機関は地域でのネットワークには強い反面、県外でのネットワークは希薄である傾向があります。そのため事業承継先の選択肢が絞られてしまうといった恐れがあります。
また地域内で多くの企業と関係を築いており裾野が広く、多くの取引先と利害関係を構築しているため中立的な判断や助言がしづらいという弱点もあります。
担当者によっては融資を前提とした事業承継を勧められる場合があり、その点も注意が必要になります。
商工会議所
商工会議所は事業承継に限らず様々な経営におけるサポートを実施している支援機関です。
商工会議所では事業承継に関するセミナーなどを定期的に行っている所もあり、事業承継についての知識を強化したい場合は有効に活用できます。
メリット:商工会議所
各商工会議所には地元の税理士や会計士、弁護士など専門的な知識をもった人達が在籍していることも多く、安心感があります。また相談料金は基本的に無料であるので気軽に相談できることも魅力の一つです。
また既に商工会議所に入会していた場合、ほぼ全てのサービスを無料で受けられます。未入会であったとしてもサービスを受けたい場合は年数万円の年会費を払えば受けられるようになります。
デメリット:商工会議所
デメリットの一つとしては各商工会議所によってサービスの品質にバラつきがある点です。
また相談は基本無料であるがM&A仲介に至ると、最終的に報酬を支払うことになることが多いです。M&Aにおいても民間のM&A仲介業者やM&Aコンサルティング会社に比べても熱心に売却候補先を探してくれない傾向にあります。
弁護士・行政書士
事業承継を積極的に取り組んでいる士業の方も多くいらっしゃいます。中でも法律の専門家である弁護士や行政書士の方も、相談先の一つとして有力です。
メリット:弁護士・行政書士
弁護士や行政書士ならではのメリットとしてあげられるのは事業承継と合わせて相続対策などの相談にのってもらえるため、将来の不安を一挙に解決できるという点です。
デメリット:弁護士・行政書士
相談料が場合によっては高くなってしまうことがデメリットとして考えられます。
また専門的な知識を要する弁護士や行政書士だからと言ってM&Aにおける全てのサポートが期待できる訳ではありません。
M&Aにおいては法律的な知識だけでなく会計や税務の知識も用されるので、その点ではサポートが手薄になる恐れがあります。
公認会計士・税理士
顧問税理士など、長年関係を構築してきた税理士や公認会計士がいる場合、最初の相談先としては最も有力だと考えられます。
メリット:公認会計士・税理士
自社以外に多く中小企業の経営者をサポートして関係を構築している事が多いため、他の経営者の悩みを聞いている場合もあり、事業承継の具体的な事例を聞けることは大きなメリットです。
デメリット:公認会計士・税理士
弁護士や行政書士と同様に自身の専門分野には強いが専門外になるとサポートが手薄になってしまうことはデメリットの一つです。
また公認会計士や税理士のアドバイスは自身が担当する顧客の事例の範疇に留まっていることが多いためM&Aの最新の動向には精通していない場合があり、手厚いサポートは受けられない可能性があります。
事業承継を相談する際の注意点、落とし穴は?
顧問の税理士や会計士が事業承継の知識があるとは限らない
顧問の税理士や会計士とは長年の付き合いで深い信頼関係を構築していることが多いです。そのため最初の相談先として顧問の税理士や会計士が選ばれる傾向があります。
しかし公認会計士や税理士は税務に関しては精通しているが事業承継の知識を有しているとは限りません。事業承継の業務は税務の知識だけでこなせる訳でなく全く別の知識も必要となります。
むしろ無責任なアドバイスを受けてしまう可能性もあります。その結果、事業承継に取り掛かる時期が遅れ売却先が一向に決まらないという事態に陥ることもあります。
相談先の見極め方、見るべきポイント
実績があるかどうか
相談先を決める時にM&Aや事業承継などの取扱実績を確認しましょう。特にM&Aを検討している場合にはM&Aの取扱実績が多い所を選ぶようにしましょう。
事業承継やM&Aには様々な予測不能な事態が生じることがあります。そのような時にこれまでの実績がない場合、臨機応変に事態に対応できないことがあります。
事業承継は経営者にとって最後の大仕事です。有終の美を飾るためにもより実績が豊富な相談先を選ぶようにしましょう。
会計、税務、法務に精通している
事業承継では会計、税務、法務の知識全てが必要になります。M&A仲介業者やM&Aコンサルティング会社であれば、その会社が税理士、公認会計士、弁護士、行政書士と連携できているか、もしくは各士業が在籍しているかを確認しましょう。
事業承継をスムーズに進めるためにも相談先には各分野の専門家がいる機関を選ぶようにしましょう。
業界内に強いネットワークを構築しているかどうか
特に第三者にM&Aする場合では同業界で強いネットワークを構築していることが大きな強みになります。そういった点ではM&A仲介業者やM&Aコンサルティング会社が強いと言えるでしょう。
これまで何件もの事業承継やM&Aを手掛ける会社であればそれだけ取引先とのネットワークの構築ができており、多くの候補先を紹介してくれるでしょう。
無料相談ができる
事業承継の相談内容は事例によって様々です。経営者にとっても事業承継は初めてであることが多いため、何度も相談できるに越したことはありません。
しかし有料相談の方が場合によっては会社の現状分析や具体的な解決策など無料相談に比べてサービスが手厚く、充実しているということもあるでしょう。
機関によっては相談会を開いていたり初回相談無料など、回数制限を設けている所もあります。まずは自身で相談したい内容をまとめて、できるだけ一度の相談の機会を充実させられるようにするのも一つの手かもしれません。
ケース別相談先
M&Aでの事業承継の場合
第三者に株式を売却し、第三者に対して事業承継(M&A)することを検討している場合はM&A仲介業者やM&Aコンサルティング会社に相談することをお勧めします。
M&Aには専門的な知識やノウハウが必要とされるため、M&Aに特化した仲介業者やコンサルティング会社はM&Aにおいては強い味方になってくれるはずです。
またM&A仲介業者やM&Aコンサルティング会社の中でも税理士、公認会計士、弁護士、行政書士など士業と連携が取れている所、もしくは各士業が在籍している所を選びましょう。
親族内承継の場合
子供などの親族を会社の後継者として事業承継する場合は公認会計士や税理士に相談すると良いでしょう。
親族内承継は従業員や社外の第三者が会社を引き継ぐ場合に比べて社内の従業員や社外の取引先等に受け入れやすい傾向にあります。
そのため比較的に容易ではありますが株式の移転方法やその時期は注意して決めなければいけません。
取引価格が定まっていない非上場株式の計算は類似した企業の業績やその会社の業績などから算出されます。
会計士や税理士は非上場株式の株価を算出することができ、得意としているので親族内承継であればまず公認会計士や税理士に相談すると良いでしょう。
会社の株式全てを親族内で保有している同族会社であれば法的な問題が起こることも少ないので弁護士への相談も必要ないケースが多いです。
社内従業員に事業承継する場合
会社の従業員に事業承継する場合は顧問税理士や取引先の金融機関に相談するのが良いでしょう。
後継者候補として選ばれた従業員が優秀で長年の勤務から事業内容も深く理解していたとしても経営者としての視点が欠けていることはよくあります。
その場合、顧問税理士であれば前経営者と同様に会社の財務状況や経営状況に精通しているため、後継者候補の良いサポーターになることができます。
また会社に金融機関から借入金がある場合は保証人の変更手続きをしなければならず取引先金融機関にも話を通す必要があるため、事前に取引先金融機関にも相談しましょう。